後向きの向日葵
“私も、被害者だ!!”
こう強調したかったのかもしれない。

先輩の場合はむしろ、当然の兆候だった。
ネットワークがあっただけに既に、複数の巻き添えを作っていた。
そのことに気づかず良かれと思って、自分が行っていたことは、チョウチョから気分を煽られて、高額な買い物をしたことに似ていた。
そして、一人になって我に返った時には、買い物を後悔したくなったのだ。
それを適切に後悔するためには自分の過ちや、至らなさを認めなければならなかった。
これは、ビジネスに食いついた理由とは、逆の感情を要求されるものだった。

何かがおかしいのは、自分にもわかっている。
ただ、認めたくない。認められない!
このモラトリアム(猶予の期間)こそが、この手のビジネスを野放しにするものらしい。

先輩はなかなか、負けられなかった。
負けられなくて・・・負けられなくて、周りから心配される度、テンションを補給して戻るのだった。
テンションを喚起する大会への進出、上層販売員との接触、やがて、その中の妻子ある男性と関係を持つようになった。
この男性は愛人が拗ねれば、間髪入れずにギターを奏でる。
そんなふうに彼女の心を、慰めてやるのだった。

不思議なことにそれは、気鬱を和らげるのだ。
例えば、人に傷つけられたショックや人を傷つけていることへの罪悪感、そして、「妻とは別れる。」という言葉が、当の恋人によって一向に果たされない痛み、等・・・。
彼の態度が醸し出す空気はどこか、この、ありきたりの世界を高級に見せたのだ。
ここで改めて繰り返すが、彼は、上層クラスの販売員だった。
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