後向きの向日葵
先輩に向かって男は、決して、金銭を要求しなかった。
彼は、関係を無理強いすることもない。
男はただ、待つのみ。
時々、ピンポイントで先輩をあやしては、先輩の方から、スキンシップを恋しがるのを待った。
傷ついた女の感覚に入り込む直前、これらは、信頼を確信する源にこそ変化する。
自分からは一切を要求してこない男とは、自分から、何も奪わずにいてくれる神でもあった。
それどころか気鬱には、黙って、頷いてくれる人なのだ。
そんなふうに扱われる自分が、・・・奥さんに勝てないはずがない。

彼女は、まだ、勝ちたがっていた。
彼女から、金品を巻き上げた者たちに。
そして、彼女から、プライドを引き落とす者たちに。

だが、自分から、要求を向けて来ない人間とは往々にして、それ以上を要求されたがらないものでもある。
「まだ、別れないの?」と口に出せば、それが、別れの明確な合図となるだろう。
そして、その時、傷ついたと訴えても、彼は、こう言うに違いない。
「僕が、君に要求したことは何も無い。」
「いつも望んでいたのは、君だったじゃないか?!」
勝利の獲得に対して魅了された、人間を打ち負かすのは容易いことだ。
たいていの場合は始めから、勝敗が決まっているのだから。

その一方で、私の心配でさえその頃にはもう、彼女を悪く刺激するばかりだった。
“ソラという人物はまたも、私の人生を敗北に向かって、位置づけようとするに違いない!”
もはや、何かにとり憑かれた精神状態においては、真実と呼ばれるものは無意味だった。
彼女の複雑な心にとってみれば純粋な配慮も、彼女の不得手を嘲笑う者も同類として、実に、巧妙に振り分けるしか術がなくなっていた。
もはやあの日の空と森の姿は、ここにおいて色褪せていたのだ・・・。
痛む心を引きずって、私は時々、一人で、すすり泣きをし始めた。
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