後向きの向日葵
その後、時折、見かける鎌田君はやっぱり、あのスーツをよく着ていた。
二人が別れてから暫くは経っていたものの、先輩以外に別れたものは無かったらしい。
鎌田君の親友だった坂上君は、最初から最後まで、何故だか、ビジネスを始めようとはしなかった。
そういえば一度として、私は、彼の心配はしないでいられたのだっけ・・・。
さて、暫く自分のことで忙しくしていると、偶然にも、街角で同級生のノッコに会ったのだ。
まだ、寒さが手加減をしていた翌年のある時期、私たちは温かい飲み物を手にしながら、再会の語り場に公園を選択したのだった。

懐かしい思い出話を楽しんだのも、束の間の出来事で、気がつくと私は、ノッコにそのビジネスの話を口にしていた。――不倫の話はしていない。――
社名を聞いたノッコは途端、素っ頓狂な声を上げた。
「ちょっ、待っ、・・・?!パフ・ラボっっ?!」
「てゆーか、ソラちゃん!あたし今、使ってるよ!」
「そうねぇ、あたし、緒方さんに紹介されたのよ!いいよぉって。」

そして、ここに登場した緒方という、名前には聞き覚えがあった。
彼女は同級生だった。
それから、以前、先輩が私に向かって、
「緒方さんって知ってる?ソラさんの同級生の・・・。」
「彼女も、ビジネスを頑張る仲間だよ。」と、
口添えしたこともあったのだ。
迂闊だった。先輩のことに手一杯で気づかなかったが、ことは私と先輩の間に限られず、社会に出始めた同世代に蔓延し始めていたのだ。

つまりは私たちの世界であの向日葵が、少しずつ、その優しい顔をしんなりと背け始めていたのだ。
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