後向きの向日葵
千賀子さんにしてみればコーチは、憧れの人物であるという様子だった。
それは芸能人を挙って追いかける、一女性の姿には変わりなかった。
しかし、そのうちに千賀子さんは、思いつめ始めたのだ。
「ソラちゃん、どうしよう・・・。」
楽しく、憧れの感情を語るはずだったのに、そこには、声を震わせている千賀子さんがいるのだ。
千賀子さんによると、自分の恋心に反応したコーチも、自分にときめき出したと言うのだ。
そして、自分には、その確信がある!と強く、私に向かって訴えてくるのである・・・。
ところが、このジムにはコーチの奥さんも臨時のコーチとして、時折、やって来ることがあり、困ったことに彼女からは最近、すれ違う度に嫌な顔をされるようになったとも言うのだ。
それがとにかく怖いと言って、千賀子さんは脅えるのだった。

千賀子さんとコーチの間には、具体的な関係は無かった・・・。
しかし、千賀子さんの側にとってはダンスで手と手が触れ合う瞬間、何よりも、具体的な感情が沸き起こっていたのだった。
「奥さんが怖い、奥さんが怖い!」と言いながらも、合同練習で旅行に出た際、千賀子さんは一生懸命、打ち上げでコーチに近づいてはお酌をしていた。
しかし、その相反する気持ちに苦しみ抜いた果てに、「もう、レッスンには出られない!」と言って、とうとう彼女はジムを止めてしまったのだ。
もちろん、彼女が、ジムを去った本当の理由を夫は知らなかった・・・。
ただ、コーチの奥さんがことの他性格の悪い人で、何度か、気まずい思いをしたことがあると訴え、ジムからの撤退に対して、夫から明確な許しを得るに至ったのだった。
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