後向きの向日葵
ところで、私は千賀子さんの家にも、遊びに行くことがあった。
家の中はいつも、きちんとしていた。
珍しいインテリアも素敵だったが、何よりも、衛生的できちんとしていたのだ。
例えば、洗顔や手を拭く際に使用する、洗面所のタオルはストッカーに、まるでお絞りのように並んでいたのだ。
そして、作業の度にその都度、洗い立てのものを使用できるのだ。
また、私は千賀子さんの手料理を、ご馳走になったことがある。
それはとても美味しかったのだが、夫のために彼女はまたも、料理を習いに行こうとしていたのだ。
それ程にやり込む人であったのに、まだ、その上を求められる千賀子さん・・・。
そうしなければいけないと思う、千賀子さん・・・。
心臓疾患こそ無かったけれど、彼女は、相当の努力家ではなかっただろうか?

しかし、この問いを打ち消すように彼女の夫は、いつまでも彼女に駄目だしを続けた。
「ちーは駄目だから、俺と一緒に行こう!」
そう言って彼は度々、彼女を連れ出した。
何度か断ったこともあるそうだが、その度に彼は、
「いや。駄目だ!ちーはそんなふうに弱いから、駄目なんだ。」
「ちーは、俺と一緒に行かなくてはならないんだ!」
と言って、決して、千賀子さんの不在を認めなかったと言う。
結局・・・。
「結局、私が行かないと駄目なのよね。」
「あの人が、駄目なのよね・・・。」
いつだったか遠い目をして、千賀子さんは呟いたのだった。
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