後向きの向日葵
社内での彼女の前途は明るかったが、もう一方で、彼女は、自分の立場について理解してもいたのだ。
彼女についた上役はハンサムだったし、体も決して、中年太りしていたわけではない。
しかし、彼には、妻子がいた。
従って、彼に対して本気になったところで、こちらが、何もかもを失わずに済む確率は低かった。
それに、何といっても、会社がひたすら要求して来たのは、決して、パートナーの足手まといにならないことだった。
彼に乱暴されることこそ無かったが、それ以前にこの関係は不毛だった。
だから、時々、綺麗な年下の男性を相手にして、その憂さを晴らそうと試みるのだ。

今日、その彼と会っているのも、間違いなくそのためだった。
けれども、この憂さ晴らしでさえ最近は、腹の足しにならないのだ。
あの湯村瑞江の一件は楽しめたが、お陰で、もう、彼女はスカイバードにはいないのだ。
それどころか、通常枠で採用されただけの同期たちは、最近、カップルを作り始めているではないか？
会社から与えられた力とやらが、今や彩子にとって、色褪せて見え始めたのだ。
万札は彩子の身なりを綺麗にしたのだが、彩子の心の奥までを慰めはしないのだった。
彩子の目にはもう、涙も出なかった。
もう、何もかもがどうでもよかった・・・。
しかし、その日、彩子は久しぶりに動揺らしい、動揺を味わったのである。
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表紙・目次

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