後向きの向日葵
尾木君には天性の・・・とでも言おうか、男女問わず、年上に可愛がられるところがあった。
それは恋愛に発展する類のものではなくて、強いて言えば、彼は、年上の男性から好かれるキャラクターだったのだ。
彼は、ある意味では素直な人だった。
しかし、この複数の要素が絡むことによって、後の問題まで育まれてしまうのだ。
彼は、私との恋愛を開始する以前からその後も、何かある度に、職場の人間に恋愛相談をしていた。この相談相手にあたる数が、尋常ではなかったのだ。
以前、彼が恋に恋する気持ちをぶちまけたところ、退屈しのぎも含めて、わらわらと課内の人々が集まってきたのだ。

僅か数人に感情を打ち明けたつもりが、彼が居たのは、仕切りもなく、複数の係が配置されている大部屋だった。
彼の思いはたちまちフロア中に知られることとなり、翌週には、別の階にも、それを知った各人によって情報が伝染していた。
その時点でまず私と彼の関係が、公認状態であったというのは、前向きなようで、私にはそういうことでも無かったのだ。
我が社には、社員同士の恋愛がバレた場合には、別れさせられるという逸話さえあったのである。

それが、どういうふうにそうなっていくのかどうか、誰も知らなかったのだが、どうしてかあまり良いことにはならないという、不幸な点だけが有名だった。
そして、これまた面白い矛盾ではあるのだが、尾木君の相談に乗る某社員、彼は、自分のそれについては必死に隠蔽していたのだ。そんなある日、尾木君の口が滑った。
「えー。先輩って、久保田さんとつき合っているんでしょ?」
「ばっ、何、言っているんだよ。尾木。俺、久保田とは別れたよ・・・。」
それは、嘘だった。周りの目を気にしてここまで、彼に言わしめる程のものが、そこにはあるという証には違いなかった。
他方、多くの先輩から、恋愛への助言を貰っていた尾木君は、それが嬉しくて、この話を知りつつもほとんど気に留めていなかったのだ。
< 38 / 40 >

この作品をシェア

pagetop