黒猫眠り姫〔上〕[完]
「去るか。寂しいね。」
「えっ、ごめんなさい。」
「ほんとに、人に敏感だね。」
「・・何が言いたいんですか?」
「ただ、自分をもっと大切にすればいいのに。
ただ、そう思っただけ。」
その言葉が、いきなり現れた変な男が、
初めて言った本心のような気がした。
三日月は、傾き、空はどことなく寂しく思った。
店の隣の空き地、つまりこの場所が、
空からも寂しく写っているような気がした。
お酒の匂いが染み付いて取れない。
そんな無残な私に話しかけた男は、
今ものんきにタバコに火をつけている。
そして、居た堪れないぐらい自分を追い込んだ
私はそんな男に絡まれた。
染み付いたお酒に酔いそうになる。
このまま酔っ払ったらどうなるんだろうなんて
バカに湊たちから逃げようとしている。
そんなこと、いいわけない。
そう思っても、体はどうしても動かないんだ。
どうしても、湊たちに会うことを避けたかった。
今のこの最低な自分を受け入れてもらえ自信が
ないから。突き放されることに臆病になって、
何も出来ずにいる私が嫌いだったから。
こんな自分見られたくない。
そう思った。
やっぱり、強くなんてないんだ。
自分の弱さを、否定するのがどこまでも
嫌で逃げている。