黒猫眠り姫〔上〕[完]
「行ける?」
「・・・うん。」
「忘れろなんていわねーよ。」
「・・・・何で助けたの?」
「言ったじゃん。あんたが俺の知ってるやつ
に似てたから。」
「そんな理由で?」
「ああ。」
「どんな人?」
「あんたも、もしかしたら知ってるかもな。」
「へ?」
「あんた以上に目が死んでるかも。」
「私、死んでるの?」
「さぁ?」
「なんか、適当だね。」
「開けるよ。」
「うん。」
店内に入ったのは酒を掛けられてから数十分。
まだまだ、びしょぬれ。
頬の腫れもひかない。
入った瞬間、酷く視線が痛かった。
周りに騒がれても別に良かった。
ただ、湊や桐、尚の顔を見る前までは。
名前も知らない思いがけないところで
助けてくれた男は今もなお前を突き進む。
冷めた顔で。
目指すは、カウンターと言わんばかりに。
手を挙げて湊と桐を呼んだとき、
なんとなく分かった。
私に似たという人が。
なぜ、助けてくれたのかも。