黒猫眠り姫〔上〕[完]
said 湊
呼ばれたことに驚き振り返ると、
知っている人が現れた。
(笹瀬 満。)
そして、今一番会いたくて仕方ない人が。
でも、見た瞬間、酷く動揺した。
なぜなら、鈴がずぶ濡れで頬が赤く染まっていた。
普通ではありえない。
トイレに行っただけで、こんな風にはならない。
だから、鈴が満と一緒に来たことよりも、
頭の中は、鈴の悲しそうにした顔が、
どうしても離れなかった。
桐も尚も同じ思いだろう。
ただ、口が開くのがあまりにも遅すぎて、
思いがけない人の登場よりも、
後悔という思いが果てしなく頭を、
支配した。
ずぶ濡れの猫は身を縮めて、
伏せた目で何を思うのか、
儚く消えかけた声を振り絞って、
自分を否定した。