黒猫眠り姫〔上〕[完]

「・・湊、苦しいよ。」

「うん。」

「ぅっ、苦しくて悔しいよ。」

「うん。」

「もっと、強くなりたかった。」

「うん。」

「泣くことも出来なかった。」

「うん。」

「突き放される気持ちがね、痛いほど分かるの。」

「うん。」

「・・・こんなの知りたくなかった。」

「うん。」

「湊、怖いよ。」

「うん。怖いね。鈴は、充分いい子だよ。」

「湊。」

「鈴。大丈夫だよ。誰も鈴から離れたりしない

よ。たとえ離れても、俺はずっと離れないから。

だから、怖くないよ。」

「・・っぅ、・・湊っ。」

「泣いてもいんだよ?」

「ぅ・・・んっ。」

嗚咽のように漏れた声は、

今まで鈴から聞く事もなかった声。

涙を流す鈴をそっと抱きしめた。

壊れてしまいそうな華奢な体が、

切なくなるほど、小さく感じた。

苦しそうに何度も湊と呼んで。

背中に回された腕が震えていた。

お酒の匂いが微かに強くなる。

その一方で、鈴がすごく近くに感じた。

涙を流す鈴は、今まで生きた中で、

一番綺麗で残酷だった。
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