黒猫眠り姫〔上〕[完]

ただ、鈴が自分を否定するほど昔の自分

に似てて、悲しくなった。

鈴がいつか心から誰かを好きになれる

ように。

自分に絶望して嫌いと言って自分から

逃げ出さないで、向き合うことが出来たら

いいと思った。

自分が言えた立場ではないのは分かってる。

それでも、鈴には知って欲しかった。

人が誰しも自分だけで生きていけないことを。

そして、悲しさも苦しさも誰かを守るため

に出来る感情だということをただ、知って

ほしかった。

泣きたくなる衝動も、自分が悲しいんだと

認めることほど強い人間はないんだよと

知って欲しかった。

「・・湊、苦しい。」

「うん。我慢しなくていいんだよ。」

「・・湊っ。苦しいね。

こんなに苦しくて耐えられなかったのは、

初めてなんだ。」

「うん。」

「どうしたらいいのかわからなくて、

いつも答えから逃げた。」

「うん。」

「いっそのこと、泣けたら良かった。」

「うん。」

「自分で自分を責めて、自分が最低な生き物

だった。」

「・・・・・・・」

「・・・怖いって言っていいのかな?」

「いいよ。これからは、自分を信じて。」

「・・湊っ。・・・怖いよっ。」

「うん。よく耐えたね。もう、大丈夫だからね。」

「ぅ・・ん。怖い。湊っ、どこにも行かないでっ。」

「行かないよ。鈴の傍にいる。」

「誰にも信じてもらえなくてもいい。

湊だけが信じてくれればそれだけしかいらない。」




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