黒猫眠り姫〔上〕[完]

桐が一番湊に近くて、私が一番湊に遠い

と思った。見えない壁は、私にはとても

切なくてどうしようもなかった。

「湊のヤツ。どこ行ってんだ。」

「私、湊のこと探してくる。」

「でも、今はもう暗くなるし待ってた方が・・」

「今、湊に会いたいの。」

「・・・・・」

「待ってるから大丈夫だよって言いたいの。」

「鈴・・・」

「私が苦しいとき湊は、傍にいてくれた。

だから、今度は私が湊の傍に居たい。

私、間違ってるのかな?」

「鈴が出した答えが答えだろ。

早く探しに行ってやれ。待っててやるから。

そのかわり、危なくなったら電話しろよ。」

「うん。ありがとう桐。」

「早く行けよ。」

「ありがとうね、桐。」

もう空はだいぶ暗くなっていた。

桐に背中を押されたような気がして、

マンションを振り返る。

湊の居る場所なんて思いつかなくて、

どうしようなんて考えている自分が

嫌で仕方ない。

走っているから目眩をしそうになる。

運動不足もいいところだ。

どうか、神様。

私に湊の居場所を教えてください。

湊に会ったらなんて言おうとか

考えるよりも湊に会いたくて、

仕方なかった。
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