黒猫眠り姫〔上〕[完]
「何でもないよ。」
表面ではそう言うんだ。
でも、本心はきっと何かを言いたいのかと
思う。私もそう思う時があるから分かる。
「何でもなくないでしょ?」
そう言うと途端に寂しそうになる。
そして、湊が口を開く。
「強くなりたいって思うことで、
強くなることはいいことだと思うんだ。
だけど、それで鈴はいいのかなって思った
んだ。」
「えっ?」
「鈴は、充分なほど強くていい子だから、
自分にプレッシャーを掛けすぎて、
重荷に耐えられなくならない?」
「・・・・・・・・」
「その時に、鈴が変わっちゃいそうだな
ってそう思ったんだ。」
「変わっちゃうのかな?」
「無理に強くならなくても、鈴が正しいって
思った方向に進めばいいんだと思うんだ。
それが出来る人が強いんじゃないかな?」
「そうだね。」
「強くなりたいって考えすぎて、
どんなふうに強くなりたいとか
分かってなかった。」
「気づくことに意味があるんだよ。」
「湊にはいつも大切なことを気づかせて
もらってる。」
「鈴が、頑張ってるからだよ。」
そう言う湊は、やっぱり私の欲しい言葉
を分かってる。
どんなに追いつきたくても湊みたいに
はなれない気がした。
近くて遠い。
置いてきぼりにされそうなほどに。