黒猫眠り姫〔上〕[完]

気づいてるんだ。

湊が私とはぜんぜん違うことぐらい。

だけど、弱気な私は湊が近くにいてくれる

ことに安心してしまう。

そんなの駄目なことぐらい知ってる。

でも、認めることなんて出来ない。

私は、そんなに強くないから、

湊が遠くにいることに気づきたくないんだ。

「やっぱり、湊は優しいんだね。」

そう言うと悲しそうに目を冷たくさせる。

「鈴の優しいは、どうしてそう思うの?」

一瞬何を言っているのか分からなくなった。

「私は、優しさなんて言葉も知らなかった。

湊が私に初めて優しさを教えてくれた。

優しいって湊のことを言っているみたい。」

「そんな風に言ってくれたのは、

鈴ぐらいだよ。」

「優しいなんてただの褒め言葉でしか

使わない人の方が多い。」

「何で?」

「それでいて残酷な言葉なんだ。」

「えっ?」

「鈴にはどうしてか説明できても、

出来ない人の方がいるんだ。」

「湊は優しいって言われたくないの?」

「そういうことじゃなくて、見てもくれてない

のに人のことを簡単に言う人が許せないんだ。」

漆黒に揺れた瞳には、悲しみに満ち溢れた

湊が居た。私は、また湊を傷つけることを

言ったのだろうか?

もう嫌だよ。湊が悲しいなんて思っている

ことが寂しいよ。

「私は、そんな風に見てないよ。

湊のこと知ったから優しいんだって思うの、

桐だって口では恥ずかしくて言わないよ。

でも、湊のこと一番分かってるから知ってる

んだよ。湊のこと見てないなんて思わないで、

この先湊に近づきたくてそんな風に言う人

が居たら私も桐も許さないから。」

< 185 / 344 >

この作品をシェア

pagetop