黒猫眠り姫〔上〕[完]
「何だか。飼い猫になれたんじゃね?」
雰囲気に合わない言葉を発するのは、
桐だった。
「飼い猫?」
「鈴は、今までずっと野良猫で、
一人が当たり前だったんだろ?」
「う~ん。例えがよくわからないけど。」
でも考えてみるとそうだ。
いつもどんなときでもひとりぼっち。
寂しいなんて思ったこともなかったから
それが当たり前だった。
街中に出ても居心地のいいところなんて
なくて外に出るのが嫌いだった。
自分の縄張りに居座っている捨て猫みたい。
嫌なほどそれはずっと続いた。
もういっそこのままでいいんではないか
そう思って飼い猫になることを諦めていた。
もう二度と誰かに飼われるような猫に
もなれずに孤独に死ぬんだと思っていた。
実際、孤独に耐えられるほど人間は強くない。
慣れた頃にはもうどこへも行けない野良猫
止まりだったのかもしれない。
これからもずっと孤独しか知らずに、
生きて行くしかなかったのかもしれない。
「何言ってるの?鈴は俺が見つけたときから
もう飼い猫になってるんだよ?」
髪を撫でる湊の手が冷たい。
でも、言葉はすごく温かい。
湊が見つけたときに私は、孤独から
抜け出しご主人様である湊の飼い猫
になれたんだ。
ずっと待ち焦がれていた。
飼い猫として誰かに孤独から、
抜け出せる道を待っていたんだ。
「そうだね。湊が私のご主人様だもんね。」
泣きそうなほど前に居る4人が眩しくて
真っ暗闇に見えた周りからは輝くばかりの
世界が広がった。