黒猫眠り姫〔上〕[完]

「鈴?」

その声に何度も戸惑った。

「鈴?」

いつだって躊躇う手を力強く握って

欲しかったんだ。

「周りなんていくらでも変えられるんだよ?

鈴の思ったようにすればいいんだ。」

いつも背中を押すその言葉がずっと前から

ほしかったんだ。

「もっとわがまま言ってみんな困らせるよ?」

「いいんじゃね?」

桐がニコっと笑いながら言う。

「もう一人になんて耐えられなくなるよ?」

「一緒に居ればいいじゃん。」

満もニコッと笑いながら言う。

「誰でもいいわけじゃないんだよ?

みんなじゃなきゃ嫌なんだよ?」

「そう思ってくれるならいつだって

鈴の傍に居るよ?」

尚の笑顔に涙が伝う。

「笑ってほしいんだ。

困ってる顔が見たいわけじゃないの。

いつだってその笑顔があるだけで、

救われるんだ。暗闇が深いほど、

傷つくことが怖くて逃げる道しか

出来なかった。」

涙が伝う頬をゴシゴシこする。

「今までずっと泣いてなかったのに

これからもずっと泣くなんて出来ないと

思ってたのに湊に会ってみんなに会って

泣き虫になった。」

「泣いてもいいよ。

泣いてる鈴も前よりもずっと人間らしいよ。」

泣いてもいいなんて言葉初めて言われた。

泣き虫なのが嫌だった。

だから泣くことをやめた。

何も変えられない自分が酷く嫌いだった。

泣いたって何もならないのを知っている。

その時にはもう涙は枯れていたんだと知った。
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