黒猫眠り姫〔上〕[完]

泣き虫になったのもつい最近の話。

だから、泣き顔見られたくなくて

みんなに背を向ける。

ボロボロ溢れんばかりに伝う涙が

止まってほしい。

こんな不細工な顔みんなに見せられる

わけない。

何度も腕で涙を拭ってもとめどなく

溢れる涙。頬が濡れてどうしようもなく

てうずくまった。

「鈴?」

後ろから聞える湊の声。

「何?」

声が普通に出せたことに安心した。

「こっち向いて?」

そう言う湊は私の気持ちをわかって

いるのだろうか?

「嫌だ。」

「鈴。」

そんな声で呼ばないでほしい。

「不細工だもん。見ないほうが

いい。」

必死に抵抗を試みた。

「不細工なわけないじゃん。」

桐が目の前に来た。

「嫌だ。」

「鈴?」

湊の声が脳を麻痺させる。

苦しくて嬉しくてわからない。

頬には涙が伝い自分でも

気づかなかった。

「飼い猫になりたかったんだ。」

その言葉が全てだった。

初めて大きなわがままを言った。

隠し続けた自分の一番のわがまま。

一人で孤独にいるなんて最初から

無理だったんだ。

だって野良猫で居る自身なんて

最初からなかった。

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