黒猫眠り姫〔上〕[完]

湊が桐が尚が満が私には眩しすぎた。

人を眩しいなんて思ったのは初めてだ。

大嫌いで一生嫌いでいるつもりで信用とか

絶対出来ないで人を寄せ付けないで、

生きるって思っていた過去の私には、

予想がつかないほどに居心地のよさを

知ってしまった。

人の温もりを知ってしまった。

野良猫の自分が嫌いだと嘆いたあの頃

私はどんな思いを心に秘めていたのか

忘れちゃいけない。

たとえ光が見えたからってけして過去

は自分から消えないんだ。

忘れてしまえるなら忘れてしまいたい。

消せるものなら消してしまいたい。

最初からなかったことに出来るなら

そうしたい。

でも、忘れることも消すことも許されない。

私だけが苦しいんじゃない。

私だけとか自分で言えるほど自意識過剰

にもなれない。

もともと私に光なんて無縁の話。

いつだって心には邪悪な世界がある。

誰よりも過去が私を闇から解放を

許さないんだ。

だから、もう一生誰かの傍に居る

ことなんてやめてしまえばいい。

そうすれば、傷つくのは私で

済むんだから。

もう傷つけてしまうことなんて

なくて済むんだから。

そう心に決めたあの日。

私は、野良猫として生きる道を

信じて疑わなかった。

飼い猫に慣れるんじゃないかと言う

甘い考えなんて全てなくして、

心を失った。
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