黒猫眠り姫〔上〕[完]
「湊。」
急に思い出した恐怖に震えが止まらない。
「どうしたの鈴?」
優しいその笑顔に魅せられて恐怖も、
薄れた。
「あそこの雑貨屋さん。」
そこは、さっき気になって入ってしまった
店。少し歩いたら着くぐらいのところだった。
「ここね。確かに、女しか入らなそうだな。」
と満がタバコをふかす。
「鈴って意外と女の子?」
桐の言葉に腹がたったが、確かに言われてみる
と私の趣味ではない。
「違うけど。そうだとしといて。」
意味の分からないことを言っているかも
しれないけど、それしか言えない。
ー鈴の空想ー
「鈴っ!!」
「んっ何?」
まだ小さい頃。
「お母さん、鈴には可愛いのが
似合うと思うの。」
「お母さんが好きなんでしょ?」
一回だけあった誕生日。
小さかった頃なのにまだ覚えている。
たったひとつのプレゼントを
初めて貰った。
嬉しくてすごく大切に使っていた。
小さなマグカップ。
子猫の猫がプリントされている
そのマグカップが最初で最後の
プレゼントだった。
その雑貨屋に一度だけ、お母さんと
一緒に出かけた。
二度と来ないと思った。
思い出したらきっと自然には
出来なくなりそうで怖かった。