黒猫眠り姫〔上〕[完]

「・・私のはじめての誕生日プレゼント

買いに来たのがあの雑貨屋だった。」

震える手を強く握ってくれる。

二人の強さに心が少し軽くなった。

「今でも覚えてる。こんな私でも、

まだ楽しいとか悲しいとか感情が

あったから。それでも、忘れたいと

願わずにはいられないの。

三歳だった。小さくても忘れることなんて

出来なかった。今よりもずっと

幸せで気づかなかった。

悲しくて辛い思いをした人が

ずっと傍にいたことを。」


三歳の誕生日。

初めて誕生日プレゼントという

ものを買ってもらった。

その誕生日プレゼントがさっき

持っていた子猫のマッグカップだった。

嬉しかった。プレゼントなんて

初めてだったから。

それにお母さんが選んでくれたもの

だから余計嬉しくて仕方なかった。

でも、それが最初で最後のプレゼント

でその時に見たお母さんの笑顔が

最後だった。家にある雑貨はよく

お母さんが好きだったこの雑貨屋で

買っていた。だから、余計辛くなった。

嘘でもあの時は幸せだった。

両親の関係が少しずつ変わったのも

このときからだった。

小さくてまだ全然わかってなかった。

「桐は知ってるよね?私の両親のこと。」

桐を見るために横を見た。

「ああ。あの時見たからな。でも、何で?」

「あのマッグカップ壊れちゃったんだ。」

桐の顔がうまく見えなくて空を

また見上げた。

沈みそうな心を落ち着かせる。
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