黒猫眠り姫〔上〕[完]
「壊れた?」
桐の不思議そうな顔を見るとドキリとした。
「・・・・その時から、感情っていうもの
失くした。」
小さな声を振り絞る。
「それどういうこと?」
尚も満も戻ってきていた。
一瞬目を離した空へと顔を上げた。
「感情なんて持ってる方が辛いって
思ったからきっと忘れちゃいたいと
思って自分から消したんだと思う。」
ジュースを受け取りタブを開ける。
「あの雑貨屋には私の楽しかった時の
思い出があった。だから、気になって
苦しくて痛くて目を逸らしたくなる。
今って言う状況も過去も全部嫌になるぐらい
私っていう人間が最低なのを知ってるから。」
乾いた喉を潤すようにジュースを流し込む。
「どうしてそんな悲しいこと言うの?」
尚の悲しそうな目に無表情に返す。
「嫌いだから。最低なこんな自分が。」
目を瞑れば浮かんでくる。
大切な人を。
「鈴。」
その声が怖かった。
私の全てを知ってしまいそうで。
「壊すぐらいなら買わなければよかった。
それでも、お母さんが選んでくれたもの
だから嬉しかった。笑顔も幸せも全部
私が壊した。だから、私の宝物だって
壊されて当然なの。何も言えるわけないんだから。」
湊の私を呼ぶ声が途切れた。
きっと知られてしまうなら全部知ってくれればいい。
秘密なんていつかはばれてしまう。
それならいっそのこと言ってしまいたい。
それでも、言えないのはまだ甘さを
捨てきれない自分がいるからなんだ。