黒猫眠り姫〔上〕[完]
「だから、こんなふうになってごめんね。
私のことなんてほっといてくれていいから。」
自分を追い込むのがきっと癖になっている。
その瞬間、湊が頭を優しく撫でてくれた。
桐の声が優しくて泣きそうになった。
「ほっとけるわけないだろう?
変な方向に自分を追い込むな。
溜め込みすぎて駄目になるぐらいなら
全部吐き出せ。鈴の家族の事情は、全部
知ってるわけじゃない。だけど、きっと
鈴はまだどこかで信じてるんだろ?」
桐の涙腺が緩んだのか涙が一筋頬を
つたった。
「桐?」
「俺は悔しい。鈴が何でそんなに苦しまな
くちゃならねぇんだ。誰にも言えなかったん
だろ?」
「私のため?その涙は。」
「同情してるんじゃねぇ。悔しいんだ。」
桐の優しいところだ。
そういうところが桐のいいところでもある。
「誰にでも言えなかったわけじゃないよ?」
「誰か他にいたのか?」
「たった一人世界で一番私を大切にしてくれた
人がいた。」
過去はどうしても辛くて振り返られない。
「鈴?」
いつだって大切にしてくれた。
どんな時でも私を優先して、
どんなことからも守ってくれた。
そんな人を私は傷つけた。
そんな事実からも今も逃げている。
現実逃避。
それが最低なことくらい自分でも
わかってる。
でも、一度も忘れたいなんて思わない。
大切な人だから、
一緒に居た時間は今もずっと
覚えてる。