黒猫眠り姫〔上〕[完]

湊の幸せを願うからこそここに居るのは

よくないんではないかと。

だけど、ここから離れられないのは

私の中の何かがここに居たいと思っている

からだと思う。

「夏は嫌い?」

湊はケータイを片手に質問をする。

みんなにメールをしているようだ。

「むしろ好きかな?でも、どこに行くとかは

なくてただ家で過ごしたりでコンビニ行くのが

日課だったから途中にある民間のプールを

見るのが好きだった。」

思い浮かべると出てくる思い出。

「見るのが好きだったの?」

「うん。泳ぎに行きたいって言うよりも

泳げる自身なかったしただぼーっと

アイスを食べながら楽しそうな笑い声が

響くその場所を見ているだけで良かったんだと

思うけど。」

「それじゃ、今年は泳ぐ側になれるね。」

ニコッと笑うと嬉しそうにする湊。

「そうだね。でも、泳げないから見てる。」

「それじゃ、意味ないじゃん。」

「いいよ。砂遊びでもしてみんなの勇姿を

見てるから。」

ふふと笑うと湊も笑う。

「泳げなくても浮き輪あるし。

今回は海に入ろうね。」

海。

私には初めての場所。

「海って行ったことないんだよね。

だから、ちょっと怖いな。」

そう言うと驚いた顔で湊は言う。

「えっ。そうだったね。

でも、大丈夫だよ。

すごく綺麗なところだから。

鈴もきっと好きになる。」

ざーっと吹くそよ風に胸が

ドキリとした。
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