黒猫眠り姫〔上〕[完]

「でもね、傍にも感じるの。

矛盾してるようなこと言ってるのは自分でも

わかってるけど、遠くて近くて離れているようで

ホントは傍に居て安心するの。」

胸に手を当て瞳を閉じる。

「見えなくても湊の存在がわかる。

湊以外はみんなシャットダウンして

私に呼びかけるように存在を知らせてくれるみたい

に湊の存在は私の中ですごく大きくて消えないよ。」

瞳を閉じると湊が目の前に居た。

「そう思ってもらえるなんて僕は

すごいって思っちゃうね。」

ときめくようなその笑顔に魅せられた。

飲み込まれてしまうようなその綺麗な笑顔は

私には深く染みこんでいった。

「・・・湊ってずるい。」

ちょっとムッツなっていると湊がふふっと

笑って余裕そうな顔で目の前に顔を近づける。

「鈴の方がずるいと思うな。いつも、心を

壊されそうでひやひやする。今のだって

天然でやってるんでしょ?」

湊のふわりとした茶髪の髪が頬を擽る。

ドキリっと胸が鳴る。

「・・・・湊。」

「うん?何?」

近づきすぎたその距離は心臓を壊してしまいそうで

ドキドキが治まらない。

「・・・ずるいよ。」

掠れた声が聞えたかは分からない。

でも、まっすぐのその瞳はいつもの

湊と何ら変わりはなくて変なドキドキに

私は少し分けも分からず不安になり、

怖くなった。

「鈴。離れていかないで。」

ドキドキに止まることのない止めをさす

ような湊の一言。

胸の苦しみは増してだけど、寂しそうな

その顔にぎゅっと締め付けられて、小さな

体で精一杯ここにいるっていう意味をこめて

湊を抱きしめた。
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