黒猫眠り姫〔上〕[完]
「僕にはとても大切でなくてはならない
そんなの鈴だけだから。」
そんなことをさらっと言ってしまえる湊を
羨ましく思った。
「・・・少し自信ついた。」
胸の不安も薄れた。
そんなふうに言ってくれる。
湊のことを大切だって言えるようになりたい。
まだちょっとした格闘があって恥ずかしさに
負けて言えない。
でも、必ず言うから。
湊は私の大切な大きな存在だって。
きっと言うから。ちょっと湊と離れた
隙間を見て思った。
湊との距離は少し遠くて近い。
でも、ほんとは届かないような距離だった
と思う。この距離の広さに切なさを感じた。
これからもずっとこの距離は守られる。
届かないほど君を遠くにしているのは
自分だと思うだけど、切なさでいっぱいになった
心に嘘をつくのは胸が張り裂けそうで痛い。
人の気持ちに理解を求めるようなことは
出来ない。例えば、それは人それぞれなわけで
自分にしか分からないことだと思うから。
でも、自分の気持ちを理解できない私は
どうだろう?
何も知らずに生きた罪はこんな形で
あらわれた。
情けないんだ。
距離を求めるほど湊の存在は私に
影響しているんだ。
だから、この感情に戸惑って分からなかった。
この胸の痛みは自分の情けなさだということに。
でも、分かる時が来る。
それまでは嘘でもいい。
この感情の名前を知りたい。