黒猫眠り姫〔上〕[完]
何も考える余裕なんて全くないほど、
鈴を見つけたことに急に安心した。
気がついたらいつの間にか鈴を抱きしめていた。
それで今に至るわけで、小さな声で鈴が言った。
「・・・少し自信がついた。」
その言葉に鈴をもっと大切にしたくなったんだ。
鈴は今何を考えているのだろう?
それは僕のことなのだろうか?
ちょっとだけでもいいから考えてくれていると
いいなと思った。
「湊?今ボーっとしてたよ。」
鈴が心配そうに顔を覗きこむ。
その自然の動作にいつも惑わせられる。
素でそんな行動しているから何も
言えなくなる。
心をいつか壊されそうで何だか落ち着けない。
鈴の天然っぷりにいつも思う。
鈍感な彼女は感情を知らない子だったんだ。
何も知らなくて当然だろう。
彼女の世界は狭く小さなものだったんだ。
そんな世界から抜け出して広い世界に
辿りつけば知らないものだらけで迷子になる。
そんな彼女に正しいことを教えられるだろうか?
間違いを見つけてあげられているだろうか。
不安を他所にいつもどうってことないそんな
顔でポーカーフェイスなんだ。
「鈴、あんまり可愛いこと言わないで。」
不思議そうに見つめる彼女は天使のような悪魔だ。
「湊、私何か変なこと言った?」
気づいてない彼女はさすがに鈍感だ。
「ごめん。今のは忘れて。」
たまに思う。
鈴はすごく可愛い。
それを分かっている人なんてきっと少ない。
何で分からないんだろう?
不思議で仕方ない。
いいところだってたくさんあるのに
どうして見てあげないんだろう。