黒猫眠り姫〔上〕[完]
「ふふっ。湊ってやっぱり湊だね。」
微笑む彼女に言葉を失う。
その笑顔は、限りなく透明。
限りなく純粋そのものだ。
自由気ままで心の痛みを持ちながらも、
いつだって強くなりたいと言う彼女は、
言うほど弱い人間ではない。
強い人間ほど、自分の強さには気づかない。
そのため、弱さばかりを見つけてしまう。
弱いと一度思ってしまうと後には引けない。
弱いと思い込んでしまうんだ。
「それってどういう意味?」
彼女の言葉は不思議と僕を考えさせる。
「そのままの意味。湊は湊!」
全くわからない。
彼女がどう思っているかなんてわからない。
だから不思議と気になってしまう気がする。
充分、自由な彼女は前よりもずっと、
自由な気がする。
強く縛られたものに抵抗も出来ない彼女は、
今自由に居られている気がした。
孤独に縛られるほど、彼女は随分感情を
捨てて生きてきたんだ。
最初に会ったあの時から、どんな人間よりも、
身を守ることに必死になって生きていたんだ
と思う。
だから、ほっといてと言われた彼女を簡単に
ほっておけるわけがなかった。
興味なんて全くなかった。
特に女の子に関わることはもう二度とないと
思っていた。
いや、二度と関わるつもりはなかった。
生きることにも必死なあの時よりは、
確実に鈴の存在に惹かれたんだ。
誰よりも、自分を責める彼女は、
会った時、雨と一緒に心が泣いていたんだ。
彼女の変わりに雨が彼女の悲しみを
あらわした。
彼女が泣けない代わりに涙を流したのは、
冷たい雨だった。