黒猫眠り姫〔上〕[完]
「ごめんね。」
そっと離れていく腕にとてつもない
寂しさを感じて思わず、湊の手を
ぎゅっと掴む。
「湊。もう少しだけ。」
わたしはすごいめんどくさい猫かも
しれない。
我儘で湊を困らせるばかりかも
しれないけど、湊の猫なんだから
誰にも連れてかれないし、湊以外
の人にはあんまり安心したり、
居心地いいなんて感じないんだよ?
「うん。いいよ。」
その時、感じる温もりに湊の優しさ
を感じられるの。
猫として可愛がられてるのかなって
思うことができるの。
いつだって湊はわたしに優しいから、
ホントに湊の猫だったらって思うの。
「湊あのね、」
湊の腕の中ポカポカする温かさに
酔いしれる。
「湊ってスーツ似合うね?」
ちょっとこんなこと言っても
いいよね。
いつもは絶対に言わないし、
湊はわたしに言うようなこと
わたしが湊に言ってもいいかな?
「鈴、今日はすごく素直だね?」
湊の身長は高いから顔が近くにあっても
上から見下ろされる。
「たまにはこんなわたしでもいいでしょ?」
恥ずかしさよりも湊の顔が近いことに
ドキドキして声が震える。
「そういうのが可愛いの。」
湊が顔をそっぽに向ける。
それが少し可愛くてご主人様の
機嫌が損なわないように湊の
顔に近づく。
「湊の近くに居たいよ。」
湊の首に腕を回した。
自分ですごい大胆なことしてるって
わかるけど、湊のことになるとホントに
本能が猫化する。