黒猫眠り姫〔上〕[完]

「あの一つだけ我が儘言っていい?」

みんなに視線を向ける。

「何?」

みんなちゃんと聞いてくれる。

「あのね、靴がどうも歩きづらくて

どうにかできないかな。」

高めの黒いヒールがグラグラと足の自由

を奪う。

ヒールのある靴なんて元々履いたことなくて

それに今日は何だか歩き疲れたせいで足が、

言うことをきかない。

「・・きゃぁっ。」

前に歩き出そうとして足を動かしたら

バランスを崩した。

「鈴、危ないね。ちゃんと摑まってて。」

湊に摑まれた腕のおかげで転ばずに

すんだ。

みんなオロオロしてた。

「あのね。これはすごく可愛いと思うんだけど、

歩くのが困難で・・・」

違う靴が良いと思うんだ。

これじゃあみんなの迷惑になっちゃう。

「そうだね。だったら、僕に摑まってて。」

にっこり笑う湊に再びきゅんっとした。

すごい紳士なんだと思う。

湊は見た目も中身も大人っぽい。

「うん。でも、いいの?」

湊の腕の裾をぎゅっと引っ張る。

「歩きづらいんでしょ?

何のために鈴の傍に居ると思ってるの?」

湊は平然とそんなことを言ってのける。

その言葉に私は自惚れそうだ。

何のためなの?

そう言ってみようか。

でも、きっと湊は答えてくれるんだろうな。

「何のため?」

知らないからちゃんと言って欲しい。

私の傍に居るのは何のため?

それから、湊。

ちゃんと答えてよね?
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