黒猫眠り姫〔上〕[完]

湊の笑いに何だか女の子として悲しくなる。

「鈴?ホントに拗ねちゃった?」

視線を感じて、湊のことを軽くシカトする。

「鈴?

りーん?

鈴ちゃん?」

普段は絶対にちゃん付けしないくせに

これだから湊には敵わない。

「何?」

不機嫌だからいつもよりそっけない

態度になる。

「機嫌直して?」

その瞬間、隣から甘い香りが漂ってきた。

誘惑に負けちゃ駄目だと思ったけど、

そんなのもすぐに忘れて湊の方に振り向いた。

「湊だけズルイ。」

チョコをひとかけ食べる湊。

「ちょーだい。」

手を差し出すと、湊から可愛い包みの

飴を渡された。

「鈴は飴ね。」

みんなはチョコなのに私だけ違うのに

寂しくなって。

「チョコがいい。」

私が一人呟くと、湊はにっこり笑いながら、

「鈴は猫だから駄目だよ。

甘いものは控えないと。」

そう囁いたんだ。

「猫だと食べちゃ駄目なの?」

ここで食い下がらないのが私だ。

「駄目だよ。それにご飯もうすぐでしょ?

鈴は少食だからね。」

キラキラと輝くネオンにドキリとする。

「じゃあいいよ。飴で我慢する。」

包みから飴を取り出して口に放り込んだ。

甘くて酸味のあるレモン味。

湊がレモン味なんて食べているのか

不思議に思った。

でも、それからはずっと喋れなくなった。
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