黒猫眠り姫〔上〕[完]
「こちらです。」
案内された席につくとグラスに水を注がれた。
席の隣は右が湊で左が桐。
だいぶ、安心感のある席だ。
「コースどうするか?」
満の話がよく分からず、知らん顔してると
みんなの視線を感じた。
「鈴?」
湊がメニューを持って聞いてきた。
「わからないから、何でもいい。
えっとでも、湊と一緒がいい。」
もちろん飼い主と一緒を好みます。
「それじゃ、みんな同じでだな。」
桐がふわっと笑うから何だか落ち着いた。
お店の中は夜景が綺麗に見える。
暗い雰囲気になってるのは夜景の
ためかもしれない。
うっとりしながら夜景を見つめる。
この夜景は目に収めておきたい。
初めて、こんなお店に連れてこられた。
昔、家で作法は習っても一度もこういった
お店に連れてきてもらえたことがなかった。
だから、お父さんもお母さんも居ないあの
家でいつもひとりぼっちでコンビニ弁当を
食べていた。
ひとりぼっちは慣れてしまったけど、
知らない世界がまだあるなんて知らなかった。
「鈴?」
今、思えば湊に会えてよかった。
湊の猫に私はなれてるかわからないけど、
湊の優しさに温かさにいつの間にか救われていたんだ。
「湊。こんな私を見つけてくれてありがとうね。」
この夜景の広さに運命を感じる。
湊と出会うことが私の人生の一番の運命だ。
きっと、湊に見つけてもらえなかったら
こんな綺麗な景色も見れなかった。
「どういたしまして。」
にっこり笑う湊にたくさんのありがとうを
込めた。