黒猫眠り姫〔上〕[完]

こんな自分に笑って生きる資格なんて

ないと思って来たんだ。

これからだってそうやって生きようと思ってた。

「好きだよ。」

小さくも心が温かくなるその言葉に

ちっぽけな私の考えも吹っ飛ぶ。

湊はどうってことないように言う。

さらって、それが普通なんだと言わんばかりに。

だから、そんなに猫が好きなのかなって

思ってた。

「1人で我慢するのは駄目だからね。」

そう言う湊がずっと我慢している。

何も分からない私でもご主人様が

辛いのはなんとなく分かる。

「湊もだよ?」

ちゃんと分かってる?

人の心配ばかりしないで、

ちゃんと自分のことも大事にしてほしい。

コンビニが見えて来た。

長いようで短い時間だった。

でも、十分な時間。

湊とこうやって気分転換をするには

長いようで短くて十分な時間。

それ以上はきっと踏み込み過ぎてしまう。

知るにはまだ早い。

過去を受け入れるにも話す方もきっと

まだうまく行かない。

繋いでる手が離される気配は全く

しない。

言葉を発さない時点で気まずそうに

見えるそこは特別私の居心地をよく

する居場所。

湊の隣に居る。

それが私のたった一つの帰る場所。

そこにしか私は居心地の良さを知らない。

「何買うの?」

そうやって聞いてくる湊は楽しそうで。

「チョコ。」

甘いものなんていらなかったかもしれない。

ホントはこうやって湊と出かけて見たかった

のかもしれないなと思った。

「それじゃ、同じの買おうかな?」

湊がにっこり微笑む。

それは私をどうしようもなく安心感を与える

魔法のようなものだ。
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