黒猫眠り姫〔上〕[完]
「お待たせ。」
バックは比較的軽めにある程度必要なものを
詰め込んで一泊ぐらいするらしいから着替えも
適当に選んで放り込んでおいた。
「車出して来るから。」
桐がそう言って先に下りた。
「湊、お仕事はいいの?」
「心配?」
「・・・・・・・」
湊は意地悪そうに笑う。
「さっきも言ったけど、今日のために
頑張ったから大丈夫だよ。」
にっこりと笑って自然に私の頭を撫でる。
この瞬間、一生分の幸せを感じる。
ただ、湊に撫でられてるだけでも私には
大きな幸せなんだ。
「鈴の荷物はそれだけ?」
「うん。」
「それじゃ、貸して。」
「えっ?」
「女の子には荷物を持たせられませんから。」
「私は、湊の猫だもん。」
急に女の子扱いされちゃ困る。
「でも、鈴は女の子だからね。」
「猫はご主人に忠実だから自分の荷物ぐらい
自分で持てる。」
「鈴は分かってないね。」
自分がおいてもらってる身だから
ただ怖いだけ。
イラナイって言われた時、ダメージ
が酷いから。
だから、頼ることが当然という考えは
出来ない。
「こういう時は男に持たせちゃえばいいんだよ。」
そういうけど、私は初めてのことだから
分かるわけない。
こうやって、優しくされることなんて湊
以外はなかったんだから知らない。
どうやって対処すればいいかなんて
自分の中では全くもってわからない。