黒猫眠り姫〔上〕[完]
「嬉しいね。」
にっこり笑う湊は最高に綺麗な顔してて、
胸がぎゅっと握られた感じになった。
「鈴は時々素直になるよな。」
ハンドルを回しながらふ私を
見つめる桐。
「素直なの?」
私、自分でもすごい捻くれてると思う。
「素直だねぇ~。」
桐は面白く笑う。
「それって褒めてる?」
貶してたら桐を海に沈めよう。
「褒めてるけど、それはそれで危ない
気がする。」
「ん?」
「そりゃ、世の中俺みたいなヤツばっかじゃねぇて
ことだ。」
「何それ?」
「例えば、その意地らしいぐらいの素直なヤツ
を騙す悪党も居るってことだ。」
「そう。」
そんなのもう分かってる。
この人生で学んできた。
誰かに裏切られることにもう慣れた。
だから、騙されないように自分で
頑張ってきたつもりだ。
悪者には悪者なりの理由があるんだと
いつかあの人は言ってた。
あの人は最後までいい人だった。
だから、その言葉を知った時
それが本当の意味でのあたしの
絶望だった。
軽く突き落とすようなその一言を
私は忘れられない。
それが例え私のことを考えてくれた
から出した言葉だとしても私は最高に
あの人に突き落とされたんだ。
「あっさりだな。」
桐は戸惑うような声を出す。
もううんざりだから。