黒猫眠り姫〔上〕[完]
私を騙したって何の得にもならない。
そんなことで悪者になるヤツが現れた
としてもそいつを同情する。
「私を騙したって何の意味もない。」
そういう考えにたどり着くほど、
昔は聞き分けのいいヤツじゃなかった。
だけど、あの人は私を嫌いだと思うから
私は自分を恨む。
こんな私が生きてることさえあの人に
とったら不幸せなことだと思う。
「どうして?」
湊は寂しそうに目を開く。
「私は・・・」
あの人の幸せを奪ったに違いない。
あの人を苦しめたに違いない。
あの人の大事なものを傷つけた。
そんな私が利用されようとも
あの人はきっと私を想うことは
ないと思う。
「騙されないから。」
人を信じる前から疑うから。
そんなの決まってる。
それだから、出会った当時の
2人を拒絶した。
「鈴。」
「もう分かってるから。
騙そうと近づくヤツの目は
私を汚い目で見る。」
そんなことで怯えたりしない。
逆に警戒心を備えるだけだ。
「鈴。」
「騙そうとするヤツは私を
馬鹿にしてる。」
馬鹿にされるぐらいなら本気で
騙してやりたくなる。
「鈴っ。」
「・・・そんなのもう嫌なほど
経験してる。」
だから、純粋に心配してくれる
2人が好き。
人間として綺麗な人だと思う。