黒猫眠り姫〔上〕[完]

私のホントに信頼できる人だと思う。

「・・・・・そんなこと忘れろ。」

桐の詰まるような声にビクッとする。

「どうして?」

忘れることが出来たら苦労しない。

「俺らが鈴をそんなヤツから守って

やるから。」

「桐?」

「だから、忘れんな。

俺らがついてるからな。」

どんなに彼らが私を大事にしてくれるか

分かるぶんそれまでの自分を憎む。

私はそんな守られるようなお高い人間じゃない。

私はただの捨て猫。

守られることに慣れないの。

自分の身は自分で守ってきたから。

「それって・・」

「鈴、大丈夫。

鈴はもう心配しなくていいんだよ。」

湊の手が私を落ち着かせる。

「ずっとここに居るよ?」

それでもめんどくさいとか思っても

離れることはないと思うよ?

「当たり前だ。」

「離すつもりはないからね。」

暗闇だった私の心にいつも

明かりを導くのは二人の

手のひらだった。

「そ、湊。」

「何?」

「桐。」

「何だよ?」

「好きっ。」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「好きッ。」

足りないかもしんない。

そんぐらい好きだから。

私の方こそ離してやらない。

その言葉、受けて立つ。
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