黒猫眠り姫〔上〕[完]
放課後になり、家に帰る誰もいないのは
いつものことだった。だから、気にしない。
だけど、今日は違うみたいだ。
家の中が少し騒がしい。リビングのほうから
かすかに聞こえる声に耳を澄ませる。
「あなたは、あの子を愛してないじゃない。
結局、私におしつけるだけで、あの子に
父親らしいことしたっていうの?」
「お前こそ何もやってないじゃないか、
男のところばかりに行って、鈴のこと
放置して遊ぶことばかりであの子が
可哀想だと思わないのか?」
結局、私のことで喧嘩だ。
おしつけあってまるでいらない子。
それなら、私が捨ててやる。
この家も親もいらない。
リビングにゆっくり行く。
二人の前に立って口を開く。
「私は、一人でも平気です。
今まで通りお金さえ送ってもらえば
それでいい。二人とも幸せになれば
それでいい。」
思ってもないことが口から出た。