黒猫眠り姫〔上〕[完]
「鈴?怒ってるわけないよ。ただ、心配
して走り回ったけど。」
「えっ、湊が?」
「うん。はっきり言って焦って、不安だっ
たよ。でも、無事で居てくれてよかった。
何かあったらって考えると心配で。」
「ごめんなさい。湊に心配かけて、桐にも
心配かけた。迷惑かけてごめんなさい。」
「なんでそんなこと言うの?」
「えっ。」
「迷惑?そんなこと桐も僕も思ってないよ。
鈴が帰ってこれなっかったのは僕も桐も
知ってるから。」
「・っ・・」
「鈴は強がりだね。桐のこと庇ったから、
こんなことになったんでしょ?」
あまりにも優しい声で湊が話すものだから
涙が溢れそうになった。
「鈴?」
その声が、あの時を思い出す。
湊に抱きついたあの時、不安そうに
呼ぶ名前に泣きそうになった。
湊の声が涙を誘う。言葉に出来ない、
気持ちと一緒に出た言葉は、私の弱さだった。