黒猫眠り姫〔上〕[完]

目の奥がツンとして目頭が熱い。

「尚の困った顔見たくない。」

「・・ごめん。」

「ごめんはこっちだよ。とんでもないこと

口にして尚を辛い目に合わせて、ほんと、

嫌になる。」

「頼むからそんなふうに自分を悪く言うな。」

手を引かれると瞳の揺れる尚の顔が真剣

だった。

「ごめん。」

「いいよ。鈴には、自分傷つけてほしくない。」

尚は私を見たまま何かを考えたような遠く

を見ながら漆黒の目を濡らした。

「何かあるの?」

「へっ」

「あっ、聞いちゃだめだったねごめん。」

「・・・・・・・・」

「もっと、強くなりたかった。」

聞えないほど小さく弱音を吐いたその時

尚は席を立った。

「ちょっと、トイレ。」

「うん。」

待っている時ふと気がつくとケータイを

開く。もう7時を回る。いつも、桐が来

る時刻をとっくに過ぎている。(桐は

いつも6時半頃来る。)現在地もよく

わからない。湊に連絡しようか考えてい

ると尚が戻ってきた。
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