黒猫眠り姫〔上〕[完]
バイクから伝わる風がなんだか気持ちいい。
6月の下旬。雨の降る気配のしない夜。
どうしようもない心と行き場のない自分
に切なくなった。急な環境の変化が、
自分をおかしくさせていた。
助けのないこの迷宮から抜け出せそうにない
自分をどこか諦めていた。
見えないどこかで動き始めた世界に
戸惑いを隠しきれなかった。
自分の状況とかそんなことよりも、
自分が人を傷つけることが怖いと
思った。尚のあの顔を思い出すと、
自分がやるせなくなった。
いつも、他人から自分から逃げる
自分は、全く強さのカケラもない
弱虫なんだと思った。
だから、強さがほしかった。
逃げ道のない迷路が広がり続ける
中、誰かに助けて欲しかった。
誰かに、こんな自分を知って欲し
かった。
弱くて何も出来ない自分を受け止める
腕があって欲しかった。
まだ、誰にも言えない過去からも、
逃げる自分は、どうしようもない。