黒猫眠り姫〔上〕[完]
「どこにも行かないよ。鈴のそばに必ず
いるから。」
「・・ずるいよ。湊は、ずるい。いつも、
私がほしい言葉をくれる。」
「そうなの?」
「湊と居ると落ち着く。どこにも行かな
い?」
「何で?」
「何か、不安で。」
「行かないよ。行くとしても、必ず、鈴の
居る場所に帰るから。」
「ご主人様としてだよね。」
「・・・・・・どうだろうね。」
「意味深?」
いつも以上に湊との距離が縮まる。
湊の髪が首にかかりくすぐったい。
夜は始まったばかりで、湊の声が、私の
心に響く。
欲しくて仕方なかった言葉を湊は意図も
簡単に言ってくれる。
震える体をずっと大切にしてくれている
ように優しく抱きしめてくれる。
涙でびしょびしょな頬の雫も湊の冷たい
手が拭き取る。
始まったばかりの夜は、あまりにも長かった。
夜空はまだしとしとと雨が降り続けていた。
窓ガラスから見た空は、暗くて黒い世界
だった。