黒猫眠り姫〔上〕[完]
「湊?謝らないで。湊は、何も悪くない
でしょ?だから、謝っちゃだめだよ。」
「鈴?」
「湊が一緒に居て欲しいって思うなら、
傍に居て欲しいって思うなら、湊の力
になれるなら私が湊の近くにいるから、
だから、頼って。」
「・・・・・・・・」
「湊が私に頼って欲しいように私も、
湊に頼って欲しいよ。」
「鈴。」
その声がどうしようもなく切なくした。
その瞳が、揺れるたび泣きそうになった。
その背中がいつも以上に小さく見えて、
その体が、震えて見えて、
思考なんて考えもせずに、湊の背中に、
腕を回した。
「湊?」
「やっぱり、鈴の方が強いよ。」
抱きしめた湊は、細くて、怖くなった。
今にもどこかに行ってしまいそうで、
いつもより湊が遠くに感じた。
「強くなんかないよ。今も、何も
出来ないで、自分のことにも向き合える
自信なんて全くない。」
「向き合えるよ。鈴は、強いから。」
「何でそう思うの?」
「鈴には、俺みたいになって欲しくないから。」
「・・・・湊みたい?」
「俺は、いつもいつまでも逃げてたから。」
「湊が?」
「だから、」
「だから?」
「俺みたいに逃げないで。鈴には、俺みたいに
なって欲しくない。」
「えっ。」
「辛いのがわかりきっている以上無理に、
向き合えなんて言わないから、でも、今日
みたいに抱えこんで欲しいわけでもない
から鈴の傍にいさせて。」
「・・なん・・・で」
「うん?」
「傍に・・おい・て・もらっているのは・・
私・・・のほう・・なのに。」
「そうでもないよ。」
「辛いのは・・湊も・・・・一緒でしょ?」