ねえ、もう一度。
聡子に無理やり背中を押され、
私は今、玄関の下駄箱の前にいます。


「ほら!早く!」

「いいって!恥ずかしいし。」


笑われるのが落ちだもの。
そんなの悲しすぎる。

数メートル先には奏の姿。
声を掛ければ奏ならこちらを
見てくれるはず。

でも…。


「怖いの」

「え?」

背中を押す聡子の動きが止まった。


怖い。
怖い。
怖い。


私は奏が好き。
でも奏は私のことなんて好きじゃない。

どんなに可愛くなろうと努力したって結局、結果は変わらないんじゃないだろうか。



「比奈!違うよ!」

「え?」

「奏君は…!!」


聡子が大きな声を上げた瞬間だった。

バチリ。
確実に、奏と目があった。

ピタリと動きが止まる奏。
じゃれあっていた男の子達も
奏と同じように私のことを見つめる。


そして口々に何か言葉を漏らしていた。


「何か言ってる。」

「ふふ。ほら比奈、奏君が来るよ」


遠くだったから何を話していたのか全く聞き取れなかったが奏が凄い勢いでこちらに走ってくるのが見えた。


ど、どうしよう!!




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