ねえ、もう一度。
奏は何かとつけて私の部屋へきては、文句を言って去っていく。ふらっと来ては1時間なんて当たり前。勝手に人の部屋に寝転びテレビを見て帰っていくのだ。
「人の気持ちも知らないで。」
そう、奏が来るたびに私の心臓はドキドキしっぱなし。視界にチラリと入るだけで顔が赤くなり心拍数が上がる。
そんなこと、貴方は知らないでしょう?
「…ふう。」
私は一人、奏の匂いが残る部屋でガクリと肩を落とした。
「比奈さー、化粧すればすっごく可愛いと思うんだよね。私的に」
「それ、どういう意味でしょうか?聡子さん。」
クルクルと巻いた髪に
いつもバッチリメイクの聡子。
「ねえ、一回してみない?」
「…めんどくさい」
「もったいない!!!」
聡子は一番の仲良しで
あたしの自慢の友達だ。
可愛くて、明るくて。
あたしもこんな風だったらなって何回思っただろう。
「大体化粧道具持ってないし。」
「私の貸すって!」
お化粧に興味がないわけじゃない。
寧ろしてみたい。でも、もしそれで変わらなかったら?可愛くなれなかったら?
私はまた笑われるのだろう。
「お前って何しても駄目なのな。」
そう、奏は笑うだろう。
「いや、笑えないし。」
「何か言った?」
「え、あ、ううん。独り言。」