ねえ、もう一度。
そんな時、教室がざわめきだした。
「あ、ほら来たよ。」
「…。」
ドア一点に集中する。
朝7時50分。大抵決まった時間に現れる奏。
軽く開いたワイシャツ。
そこから覗くシルバーのネックレス。
誰が見てもお洒落さん。
「今日は由美かー」
「呆れる。」
私はフイっと視線を外した。
同じ時間に現れるくせに、隣にいる女の子はいつも違う。毎朝毎朝、胸が締め付けられるような思い。でも、気付かれちゃいけない。私みたいなのが、奏に似合うわけがないんだもの。
幼馴染。たったそれだけの関係なんだもの。
「比奈って奏くん相当嫌ってるよね」
「だって見ててムカツクんだもん」
そんなの…嘘。
「ひーなっ」
「…何?」
そして奴のもう1つの日課。
これが私にとって一番厄介なのかもしれない。
「はい、お弁当」
「…だからさ、毎日毎日なんであたしがあんたの弁当を作ってこなくちゃいけないわけ?はっきり言って超超超めんどくさい。」
私の前でからの手を差し伸べる奏。
「え?んなの昔からじゃん。」
「…いや、それ理由になってないから。」
とか、いいながらも奏の分のお弁当を毎日持ってきちゃう自分って相当惚れてるなあって呆れる。
周りからの冷たい視線に耐えながら、黄色の包みの箱を奏の手の上に載せる。
「さんきゅ。」
「はいはい。」
くしゃっと私の頭を撫で、
奏はまた女の子の輪の中へと消えていった。
…触るなっての。
触れられたところが、熱い。