ねえ、もう一度。
危うく箸どころか弁当も落としそうになった。
比奈が…可愛い?
チラリと比奈を見ると聡子ちゃんと楽しそうにお弁当をつまんでいた。俺には見せない満面の笑み付きで。
隣の男は比奈を見つめ、うんうんと頷いている。
「…あんなん女じゃねぇだろ。お前、目可笑しいんじゃね。」
「分かってねぇな、お前。」
ニヤニヤ笑う友達は
楽しそうに俺を見つめた。
んなこと、言われなくても分かってる。
比奈は十分可愛い。
でも、誰かに言われたのは初めてで。
内心滅茶苦茶焦っていた。
「スッピンだぜ?お前、家でのアイツ見たことある?最悪だっての」
「へー。別俺は着飾ってなくて逆に言いと思うけど。」
必死だったんだ。
誰かに気付かれたくなくて。
比奈の良さは俺だけが分かっていればいい。他の奴に[可愛い]なんて思われなくて良いんだよ。
もし、こいつが比奈のことを好きになったら?
そう考えるだけで胸がムカムカする。
「あ、比奈ちゃんがこっち見てる。」
「え?」
俺はぐっと箸を握りしめながら
比奈の方へと視線を移した。
「…」
ばちっと視線が合った。
「ひ…」
フイっ。
明らかに逸らされた視線。
比奈、そう呼ぼうとした声は声にならなかった。