ねえ、もう一度。


「私が変身させてあげる」

「え、ちょ!待って」


私の返事を聞く前に、聡子はさっと
メイク道具片手に私の前に立った。


「拒否権なし!奏君びっくりさせよ」


…メイクしたって、私何も変わらないもん。
元が悪いって本当嫌になる。

でも、聡子は何を言ってもやめそうにないし…。


「今日だけね」

「はいはい。そう言っているのも今のうちよ」

私は大人しく、聡子になされるがまま
大人しく目を瞑った。




数分後。





「はい、完成!」

「終わったー?」

「完璧。やっぱり私の見込んだとおり」


ゆっくりと目を開ける。
目に写る景色はいつもと変わらない。
でもなんでだろう。
心が軽くなったような気がした。


初めてお化粧をした。
なんだか鏡を見るのが怖い。


「比奈、自身持って。すっごく可愛い」

「…そんなわけ」


ぱっと目の前に鏡が出される。
写っているのは紛れもなく、私。

でも、いつもと全然違う…。


これは、本当に私?




「ね。可愛いでしょ。本当は比奈、化粧なんてしなくても凄く可愛いの。でも、これは魔法。化粧はね、女を強くするの」

「…強く?」

「大丈夫。比奈、自身持ってもいいんだよ」



クルリとあがった睫毛。
ほんのりピンクの頬。
引かれたライン。

どれもこれも、初めて。


「ほら、これで奏君に会ってきなさい!」

そう窓の外を指差す聡子。
目で追ってみると、玄関には
数人の男の子と戯れる奏の姿があった。



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