白の世界
ベンチ
西荻窪のライブハウスで、一輝に出会ってから、半年が過ぎたある日、一輝が突然、あたしの働くショップに、ボーカルの憲次と顔を出した。


あたしは、新宿にあるファッションビルのテナントで店長をしていた。働き初めて、5年になる。

[death dealer]というブランドだ。

流行を追うようなブランドではなく、かなり個性の強いブランドで、パンク色の強い、ガーゼシャツ、タータンチェックのプリーツスカート、ボンテージパンツ、鋲がついたアクセサリー、ラバーソール、ライダースジャケット、・・・、などを取り扱っていた。

どのアイテムにも、トレードマークのドクロがついている。


普通の人には、全く受け入れてもらえない商品が多いため、日頃からショップには、顧客が買い物を楽しみに来る程度で、そんなに忙しい毎日ではない。

だいたい、この流行最先端のビルに、うちのブランドが入ってるというのが奇跡に近かったし、浮きまくっていた。



ちなみに、可奈とはここで出会ったのだが、今はテレアポの仕事をしている。テレアポの方が、融通が利いていいのだそうだ。


「店長・・・。さっきからガラの悪そうな人たちが、こちらを見てるんですけど・・・。」

ショートヘアをアッシュ系に染め、眉と口にピアスをあけた、アルバイトの真由美が、少しおびえた表情でレジの裏にある、ストックルームで書類を仕上げていたあたしに声をかけた。

「ガラの悪いって、どんな?」

「うちのビルにもあまり来ないような、感じの。とにかく、じっとみてますよ。」

「真由ちゃんの知り合いじゃないの?あたしにそんな知り合いはいないよ。」

「あたしだって、あんな恐い人たち友達にいません。とにかくちらっと見てくださいよ。」

「わかったよ。」

あたしは、棚卸しの書類から手を離し、よろよろと店頭に出た。


「あぁ・・・・。」


そう、そこに立っていた、ガラの悪い人たちは、一輝と憲次だったのだ。
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