ひなたぼっこ~先生の、隣~



教室に入ると、そういう噂は誰もしていなかった。








だけど、昼休みになると教室中がその噂話が飛び交い始めていた。




肝心の香奈が休みのため、言いたい放題。




"抱き合っていた"という噂が…




"二人は付き合っていて、よく準備室で密会をしている"という噂までに発展。




きっと、高橋先生の耳にも入っているだろう。













「あ!妹尾さん、危ない!!」




「え?」






バコ!





バレーボールのボールが、見事に顔面にあたった。


「いた…」


思わず、手で顔を覆う。


「大丈夫?」


ボールをアタックした生徒が、心配そうに泰葉の顔を見る。


「大丈夫……じゃない」


覆っていた手をどけると、血がついていた。




「鼻血!?ちょっと大丈夫じゃないじゃん!先生ー!」





その声に、体育教師の田中先生が駆け寄ってきた。










顔を洗って来いと言われたが、騒ぎに気付いた立川くんが、"朝から妹尾さん、調子悪いみたいなんですよ"と先生に言ったらしく、体育の授業中は保健室で休んでろってことになった。








静かな廊下を、鼻を押さえながら歩く。







「失礼します」


保健室に入ると、かすかな消毒液の匂いがする。


生徒が入ってきたのに気付いたのか、目を見開いてみる。




「あら…どうしたの!?鼻血?」



「ボールがぶつかりまして…」



"あらら…大変ね"と言い、簡単な処置をしてくれた。


「とりあえず鼻血は、止まったみたいだけど…どうする?休んでく?」



「あ…、田中先生に授業終わるまで保健室で休んでていいって言われました」


「なら、あそこのベットでゆっくり休んで行きなさい。あ、隣にも寝ている人いるから、起こさないようにね」




「はい」






< 56 / 421 >

この作品をシェア

pagetop